内省の海

持病の治療を中心に日々思うことをつらつらと

優しさに触れて

買い物から戻ると、停めてあったチャリのブレーキが利かなくなっていた。

途方に暮れて近くの自転車屋に持ち込むと、店員のおじさんが「あー、これはイタズラされたね」と言って一瞬で直してくれた。

お代はと尋ねたら「いいよ、これくらい」と言って店内に戻っていった。

人の優しさに触れて、ますますこの商店街が好きになった。

おいしいカレー屋もあるし(先日キーマカレーを食べた店だが、この日食べたチキンカレーは大当たり)、激安八百屋も、近くに大きいダイソーとキャンドゥもある(笑)

一人暮らしを再開したら、候補地に検討してもいいかもしれない。

 

また、Twitterでは先日の件を引きずっていることをつぶやいたら、何人かのフォロワーさんからアドバイスを頂いてありがたかった。

病気のカミングアウトにはいつでもその人との関係を失うリスクがつきまとうけど、そういった悩みに苦しみ抜いた末に辿り着く境地もあるのかなとフォロワーさんを見て思った。

痛み

今日はアプリで知り合い気になっていた男性と3回目のデートだった。

食事を終えた後、その人の家に呼ばれそういう雰囲気になったので、このままではいけないと思い、服を脱がそうとするその人の手を止めて、自分のことをどう思ってるか尋ねた。

彼は「付き合えたらいいと思ってる」と答えた。

その言葉の信用度は僕には量りかねたが、そういうことなら話さないわけにはいかなかった。

感染発覚から数ヶ月経ちすっかり感度が鈍っていたが、HIV陽性であることを告げたときの彼の表情で、それが非キャリアにとってどれだけ重大なことか思い出させられた。

彼に駅まで送ってもらい「またね」と言って別れたが、その後、彼からのLINEはない。会うのもひょっとしたらこれが最後かもしれない。

正直つらい。でもこの先何度も経験するであろうこの痛みにも慣れていかなくちゃいけない。

上咽頭炎治療と仲宿商店街

今日はn回目の上咽頭炎治療。

平日だし空いてるだろうと高をくくってたら、まさかの激混み。2時間近く待つ羽目になった。

病院が夏休みに入ることもあり、駆け込みで治療に来る人も多かったのだろう。誤算だった。

しかし待った甲斐あって(?)、今日は念入りに治療してもらえた。

いつもなら経口は一回しか処置されないけど、一回目の処置後、注射器でなんだかよく分からない薬液をのどちんこに向けてピュッとされたあと、二回目の擦過処置ではこれでもかというくらい喉の奥をえぐられて何度もえずいた。

でもおかげで今日は痰のきれもいいし、比較的すっきりしてる。最近、治療の効果も停滞気味だったので嬉しい。

しかし、この先生、治療内容にムラがあるというか……いつもこのくらいしっかりやってくれるとありがたいのだけれど。まあ、先生なりに考えがあってのことなのかもしれない。

先生に「歌はどう?」と訊かれて、そういえば初回に歌うのが趣味だと話したことを思い出し、まだ喉が腫れぼったくて高音が出しにくいと答えた後「歌うのは控えたほうがいいですか?」と訊くと、そんな必要はないと言ってもらえて安心した。

 

10時台に着いたのに病院を出る頃には昼過ぎになっていたので、帰りに気になってた近くのカレー屋に寄ることにした。

病院を出て石神井川を渡ったところから始まる仲宿商店街は、活気があってなかなか好きな雰囲気だ。

カレー屋に向かう途中で見つけた激安な八百屋では今年初のゴーヤをゲット(それでも138円だが、19円の大根と39円のレタスでチャラだ)。

カレー屋で注文したキーマカレーは割と甘めの味付けで、正直好みの中心からは少し外れていた(それでも丁寧に作られてる感じは伝わってくる)が、店の雰囲気・接客ともにとてもいい感じだったので、別メニューを食べに必ずまた来よう。

次は夏限定のポークカレーを食べてみたい。

節目の日

某大手SIerに新卒から六年間勤めてきたが、健康上の理由(という建前)で今日から休職を取ることになった。

休職といっても実際はこのまましれっとフェードアウト(つまり退職)するつもり。

こうしてまとまった時間が取れるようになったので、今日からまた、2,3記事書いて放置していたブログを再開しようと思う。

とはいえHIV感染発覚から3ヶ月以上経過しており、当時のショックもだいぶ風化しつつあるが、初めての通院や手帳の申請、投薬開始など、HIVキャリアにとってのマイルストーンとなる出来事は、なんとか思い出しながら記録していこうと思う。

それらの記事はそれなりのボリュームになるだろうが、それ以外の日常の雑記は一言日記くらいの軽いノリでいこう。

告知の夜

液晶に表示された番号を確認し

大きく深呼吸してから通話ボタンを押した。

 

「▇▇さんのお電話でお間違いないでしょうか」

 

穏やかな声の女性だった。

 

「本日受診されたSH外来の検査結果について

 お伝えしたいことがあります」

 

やっぱりそうか…

覚悟を決めて、次の言葉を待つ。

 

「検査の結果、▇▇さんはHIV陽性の疑いがあります」

 

次に来る言葉はほぼ確信していたのに

その言葉の与える衝撃は想像以上だった。

突然、胃の中に石でも入れられたように

腹のあたりがずんと重くなった。

沈黙していると、女性が言葉を続ける。

 

「それで近日中、可能なら明日にでも

 ご来院いただけますでしょうか」

 

そうなると二日連続で会社を遅刻することになり

職場は迷惑するだろうな…と

この期に及んで、仕事の心配をしている自分がいたが

こんな不安な状態は

一日でも先延ばしにしたくなかった。

 

了承すると

女性から10時頃来院するよう指示された。

朝一だとまだ結果が確定していないそうだ。

また、陽性だった場合

追加の検査に3~4時間ほどかかり

費用として1~2万円必要となることが

あわせて案内された。

 

必要事項を言い終えた女性から

電話を切ろうとする気配が伝わってきたので

慌てて詰め寄るように女性に尋ねた。

 

「あの、これってもう

 ほぼ陽性ってことですよね?」

 

「今の段階ではまだ確定ではありません。

 明日朝の検査で最終的な判定がされます」

  

「でも…もう間違いないと思います。

 このところずっと体調も悪かったし

 症状にも心当たりが多すぎて…」

 

訊かれてもいないのに

僕はここ数ヶ月で自分の身にあった

体調不良について語り出した。

何か話していないと

とても正気を保てそうになかった。

 

そんな患者の様子にも慣れっこなのだろう。

支離滅裂な僕の話を一度も遮ることなく

女性は最後まで聞いてくれた。

 

いよいよ話すことがなくなり

「それでは…」と女性が切り出したところで

僕は女性との通話を終えた。

 

電話を切った途端、強い孤独感に襲われて

話を聞いてくれそうな友人に片っ端から電話をかけた。

 

HIV陽性になったみたい」

 

突然の告白に友人たちは

みな驚いた様子だったが、全員が口を揃えて

一次検査ならまだ陽性と決まったわけじゃない、と

励ましてくれた。

だけど、その励ましの言葉も

僕には虚しく響いた。

 

最後の友人と話し終える頃には

もう11時近くになっており

さすがにそんな時間に

話を聞いてくれる相手も思い浮かばなかった。

少しでも休もうとベッドに入るも

眠気はまったく訪れない。

 

諦めてノートパソコンを開いた。

入力した検索ワードは「HIV 偽陽性」。

もう腹を括ったほうが楽だろうに

それでもわずかな可能性に

縋ろうとしている自分が滑稽だった。

 

その後も様々なHIV関連の

サイトやブログを読み漁り

夜もだいぶ更けてきた頃

絶望することにも疲れたのか

ようやく浅い眠りにつくことができた。

運命の電話

サイトメガロウイルスの件で

にわかにHIVへの不安が高まり

すぐにでも検査を受けようかとも思ったが

4月にSH外来 *1 での検査を控えていたこともあり

それまで待つことにした。

そうこうしているうちに微熱も下がり

次第に不安も薄らいでいった。

 

そうして迎えたSH外来受診日。

検査もこれで3回目なので慣れたものだ。

無事検査を終えてから、少し遅れて会社に出勤し

いつものように仕事を片付け

いつものように一日を終えるはずだった。

 

夕食を終えた7時過ぎ。

未登録の番号から電話がかかってきた。

普段から知らない番号の着信には応じないため

電話が切れたあと

どうせまた勧誘か何かだろうと思い

インターネットで着信の番号を検索した。

するとそれは午前中に検査を受けた

病院の番号だった。

 

一気に鼓動が早くなる。

検査の結果は数日後メールで知らされるはずだし

これまでもそうだった。

なのにどうして…

ふいに嫌な予感が胸に広がり

慌てて着信の番号にかけ直した。

 

電話は病院の夜間窓口に繋がった。

窓口の男性に

今しがた電話があったこと

今日SH外来で検査を受けたことを伝え

そちらに繋いでほしいと依頼した。

 

「でもこの時間はどの外来も閉まっていますが…」

 

「お電話いただいてからまだ5分も経ってないんです。

 とりあえず確認してもらえませんか?」

 

切羽詰まった僕の口調に

若干いらだった様子で

男性は通話を保留に切り替えた。

数分後、通話に戻った男性は

無慈悲にもこう言った。

 

「やはり誰も出ないようです。

 急ぎであればまたかけ直すと思うので

 お待ちいただけますか」

 

にべもなく通話は打ち切られ

あとにはどうしようもない不安だけが残った。

時刻は8時を過ぎていたし

今日中に電話がかかってくるとは思えない。

かといってこんな気持ちでは寝付けそうにもない。

祈るような思いで電話を待っていると

再びスマートフォンが鳴り出し

病院からの着信を告げていた。

*1:国立国際医療研究センター病院に開設されたゲイ・バイ男性を対象とした性感染症の専門外来。僕はここで3ヶ月ごとに検査を受けていた。

予兆②

1月の謎の高熱から約1ヶ月。

会社を休むほどではないものの

微熱と倦怠感は続いていた。

以前から別件で通院していた耳鼻科に訊いても

自律神経が乱れているせいで

体温調節がうまくいっていないのだろう、と

深刻に受け止めてもらえず。

 

そんな折、2月に受けた健康診断の結果が届いた。

結果は「要精密検査」。

今まで引っかかったことのないALT・ASTという

肝臓の値が基準値を大きく超えていた。

すぐに肝臓専門医のいる内科を受診し

事情を話して、血液検査をしてもらった。

 

検査の結果、問題の値は健診時より回復していて

おそらくこのまま正常値に戻るだろう、とのこと。

ほっと胸をなでおろしていたら

つづけて医師からあるウイルス名を告げられた。

 

サイトメガロウイルスの抗体がありました」

 

聞き慣れない名前だ。

それってヤバいやつ?

 

「成人の半数以上が感染歴のあるウイルスですが

 初めて感染すると症状が重くなることがあります。

 あなたは今回が初感染だったのかもしれませんね」

 

ふーん、そういうものか…

 

医師の説明に納得はしたものの

気になって、のちほど件のウイルスについて

ネットで調べてみた。

するとそこに思いもよらない一文が。

 

エイズ患者によく見られる合併症のひとつ”

 

………まさか、ね。

 

一抹の不安が胸をよぎったが

高熱が出る前の1月の検査では陰性だったこと

ここ2ヶ月はリスクのある行為をほぼしていないこと

それらの事実で不安な気持ちにふたをして

その日は無理やり自分を安心させた。