予兆②
1月の謎の高熱から約一ヶ月。
会社を休むほどではないものの、謎の微熱と倦怠感は続いていた。
以前から別件で通院していた耳鼻科に訊いても、自律神経が乱れているせいで体温調節がうまくいっていないのだろう、と深刻に受け止めてもらえず。
そんな折、2月に受けた健康診断の結果が届いた。
結果は「要精密検査」。
今まで引っかかったことのない「ALT・AST」という肝臓の値が基準値を大きく超えていた。
すぐに肝臓専門医のいる内科を受診し、事情を話して血液検査をしてもらった。
検査の結果、問題の値は健診時より回復していて、おそらくこのまま正常値に戻るだろうとのこと。
ほっと胸をなでおろしていたら、つづけて医師からあるウイルス名を告げられた。
「サイトメガロウイルスの抗体がありました」
聞き慣れない名前だ。
それってヤバいやつ?
「成人の半数以上が感染歴のあるウイルスですが、初めて感染すると症状が重くなることがあります。あなたは今回が初感染だったのかもしれませんね」
ふーん、そういうものか……
医師の説明にその場は納得はしたものの、のちほど気になって件のウイルスについて調べてみた。
するとそこに思いもよらない一文が。
“エイズ患者によく見られる合併症のひとつ”
……まさか、ね。
一抹の不安が胸をよぎったが、高熱が出る前の1月のHIV検査では陰性だったこと、ここ2ヶ月間リスクのある行為をほぼしていないこと、それらの事実で不安な気持ちを押しやり、その日は無理やり自分を安心させた。